海水について
- 容量の少ない小型水槽でタイドプールを再現するのは簡単ではありません。水量が少ないと水質の変動が大きく維持、管理が一挙に難しくなるからです
では、どうするか?・・・水槽を構成する海水・底砂・ライブロックという内容物の一つひとつから改めて「生物ろ過」の視点から見直していく事です。
小型水槽では、プロテインスキマーも大容量のサンプ、リフジウムを設置できません・・・どうしても「生物ろ過」を槽内で強化するというアプローチとなります。言い換えればプランクトンやベントスそしてバクテリアが豊富で活発に活動できる環境を作る必要があるという事です。
その視点からの主要な内容物である・・・海水について改めて考えてみると・・・
①天然海水:
塩分 3.4% 水 96.6% 比重 1.02~1.035g/cm3
塩分とは・・・塩化ナトリウム 77.9% 塩化マグネシウム 9.6% 硫酸マグネシウム 6.1% 硫酸カルシウム塩 4.0% 塩化カリウム 2.1% その他微量元素 0.3% (ストロンチウム等)
KH(炭酸塩硬度)6~7° (炭酸イオンや重炭酸イオンの対になるカルシウム、マグネシウムの塩濃度)
※ 自然の海水は地球が形成される歴史の産物として誕生したため非常に複雑な成分構成となっています。
②人工海水:
各社、様々な製品が出ていますが主要な天然海水成分を粉状にして可溶性を高めて製品化しています。天然海水には敵いませんが必要な時に手軽に作れて使用できる事がメリットと言えます。また、成分比を飼育する生体に合わせてカスタマイズできる事からコーラル類に特化する製品なども出来ています(ハードコーラル類などは骨格形成で水槽内からカルシウム、マグネシウム類を消費する事からあらかじめ、これら塩類の濃度↑や硬度↑する事によりコーラル専用海水を謳う等)
※私は、シーライフ、レッドシー等を天然海水が採集できなかった時に補助的に使用しています(可溶性が良いのでシーライフを使用する事が多いです)
興味のある方は参考まで・・・ シーライフさんのHPです
- 天然海水と人工海水の違い
①大きな違いの一つは・バクテリア(様々な菌類)・植物プランクトン(珪藻類)・動物プランクトン(コペポーダ等のカイアシ類、カニの幼生ゾエア、フジツボの幼生ノープリウス、貝の幼生ベリンジャーなど)が豊富に含まれている事です。これらは海中で発生している窒素、リンを含む有機排出物-細菌-原生動物に至る生産-分解、消費⇒「微生物ループ」「食物連鎖」を支える大きな土台(ベース)です。 これらが、海を清浄に保つ生物の物質循環を支えています。
※ 但し、ゾエア等の一部には招かるれざるゲスト(イソギンチャク、フジツボ、ウニ等の幼生)が混入する事がありコーラル類専用の水槽などではキュアリングを実施して導入する必要があります。
②2つ目がストロンチウム、亜鉛、ホウ素等の微量元素です。ストロンチウムで8mg/l程度と極微量です。これらが天然海水では確実に含有している事です - 水槽内の海水がキラキラと煌めくような透明度があるのが、私が思う理想のコンディションです。天然海水で換水した時に透明さだけではなく「キラキラ」と澄んで煌めく状態を何度も経験してから私は自家採集海水を利用しています。・・・海水に含まれる多様な生物叢(バクテリアや豊富なプランクトンが水槽内の砂や岩に住み着く)が生物ろ過を充分に行い水槽全体を浄化しバランスよく機能している証拠となります。
※水槽内で体積のほとんどを占めている海水=これが生物ろ過の主役として機能する大切な主役であることを再確認する必要があります。
※ 但し、天然海水は「生きている海水」⇒「死んでいく海水」となります。 生物ろ過にとって良い海水である事は間違いありませんが、新鮮さを損なうと効果が期待できない事となります。⇒ポリタンクなどに汲み置きをしたままの海水ではバクテリアやプランクトンはそのまま徐々に死滅していきます。・・・新鮮なうちに水槽に入れる必要があります.。私の海水採集では・・夏場など30℃を超えるような状況ではブクブクなどを使ってエアレーションしながら自宅までもっていきます(4時間程度 泊りがけの採取も含めると24時間程度)
通常60L程度は海水のみ、プランクトンや海藻、フジツボなどを採取したものは別の容器に入れて分けています(プランクトンやベトクン類は見た目は小さくても生体ですので酸素消費はします、多く大量に採取した場合はエアレーションが無ければ確実に死滅します・・・よって、海水にこれらを混ぜてしまうとせっかく採集した海水がダメになってしまいます)
※汲み置きの天然海水は、出来ればブクブクなどのエアレーションがベターですが、私は夏場などの30℃を超えるような時期以外は室内でポリタン保管しています(早めの使用が原則ですが、夏場を除けば、1~2週間程度使用しています)
この様に、天然海水の使用はろ過水槽にとって非常に良い効果を発揮しますが、保管や管理で手間がかかる事は否めません・・しかし、その効果を考えると「立ち上げ水槽」「調子の悪い水槽」などには使用していきたいものです。 - 参照資料
全般的に非常に良く出来ており、海の成り立ちや地球での物質循環、プランクトンを含む生物層の役割など水槽を管理するにあたっての知っておくべき基礎的な側面が揃っています・・・一度目を通してみて下さい
⇒ ※ 「北海道大学 LABOS 海と生き物を学ぶ」公開講座


ライブサンドについて
- ※ ライフサンド=生きている砂
通常の底砂には生物ろ過を支える好気性菌、嫌気性菌やプランクトン・ベントス類は当然定着していませんので水槽に販売されているサンゴ砂をいれても生物ろ過は期待できず・・・いきなり魚やコーラル類を入れれば水槽は直ぐダウンしてしまいます。 ろ過バクテリアなどを投入する方法もありますが、水槽の中の生物サイクルが順調に回り生物ろ過が始まるまでは1~2週間程度は見る必要があります。
特に、タイドプールを再現しようとすると海藻、海草、貝やカニなど様々生物が作る生物層が作る生物サイクルや微生物ループは絶妙なバランスで保たれています。よって、水槽の立ち上げには・・・私はライブサンドを使用しています。
ここでは、底砂について「生物ろ過」から見た注意点や留意すべき事項についてまとめました。・・・(小型水槽を想定しているのでオーバーフローのサンプ、リフジウムについては除外しています)
水槽/底砂の関係
①底砂=水槽内のろ材として考えると・・・
水槽に敷いている砂は底面にしろ外部フィルターにしろ「生物ろ過」を担う、ろ過細菌が棲息する一番のスペースと言えます。約30L程度の水容量の水槽を想定すると・・・外部フィルターでは概ね3L、底面では約7cm程度(中目、粗目mix)敷くと容量的には約7L 重さでは約4~5kg程度・・・
水槽内容量の2割程度を占めるろ材が入ると考えると水質に対しての効果は大きいと思います。これらに如何にバクテリアを定着させて「生物ろ過」を活発にさせるかがポイントで・・・①全体が好気性雰囲気となりヨコエビ類が定着、表層での有機排出物(主に生物の死骸やフン等)を消化、分解してろ過バクテリアに栄養素として供給し水質浄化サイクルが活発に回る事②水槽内の汚泥を分解、消化しバクテリアに栄養素として供給できるベントス類(ゴカイ、貝、ナマコ等)が定着している事。またこれらが活発に動く事で砂中は更に好気性となります③底部や四隅に嫌気性雰囲気が適度にあり嫌気性菌により脱窒が期待できる事・・・
※ 水槽内容物の1/5を占める底砂にプランクトン、ベントスなどを定着させ過バクテリアへの栄養素供給源として「微生物ループ」「生物ろ過」の「生産-消化、分解⇒浄化サイクル」を回る様にする事です - 具体的に底砂にプランクトンやベントスを定着させるには、2つの方法があります。
①既に、各種プランクトンやベクトン等が定着している市販のライブサンドを購入し底砂とする。(海水魚販売店ではサンドが市販されていますので購入してみて下さい)
私は、以前CPファームさんのを水槽立ち上げ時に使っていました。
既に海水水槽を回している場合は簡単で、使用していた底砂、海水や外部フィルターのタンク水や汚泥等を添加するだけで十分です。
②私が実施している方法ですが・・・使用する砂に海草や海藻を採取して活着した自家製ライブロックを設置して水槽内で数日程度循環すれば自然とライブサンドとなります。
※ 但し、磯などでの採取にあたって注意すべき事項は共同漁業権が設定されている場合が多くあることです。
具体的には・・わかめ、ひじき、あらめ、てんぐさ、あかもく等海藻類や一部の貝類などについては採取できませんし違法となります。この点は事前に採取場所にあたる県のHPに共同漁業権一覧が掲示されているので確認する必要があります。特に海藻類は種類も豊富なので採集に当たっては私は事前に図鑑等で確認するようにしています。 神奈川県のHPとなります、興味のある方はクリックしてください⇒ 磯遊びのルール 共同漁業権の解説
まず、必要とするプランクトン、原生動物については・・・磯などに繁茂している海藻を採取すると葉や根元にヨコエビ等の豊富なプランクトンが付着しています。これを底砂に定着させるのです。(写真参照)
たまに、小さいゴカイなどベントス類も期待できます。 もう一つは干潮時にゴロタ場を掘ってみて下さい、意外と容易にゴカイやヨコエビ等のプランクトンやベントスを捕獲できますのでこれを底砂に移植します。(写真参照)・・・これらを海水に浸した砂においてエアレーションして1~3日程度放置するだけでかなり定着します。
底砂の適度な粒径とは?
底面ろ過を実施する場合は粒径の細かいパウダー系はどうしても底面フィルターに詰まり易く私は使用していません。外部フィルターを使用している場合はそれほど神経質になる必要はありませんが、粒径は細目~中目程度・・・具体的には極上サンゴではNo.2~3にNo.15(サンゴ片)をミックスして使用するのが良いと思います。私の場合はサンゴ片は水槽入れ替え時、廃棄するライブロックを砕いて使用しています。
特にサンゴ片の隙間にはヨコエビなどが棲息しやすいので入れる事にしています。 - 底砂の厚みはどの程度が適正か?
底砂はろ材であり生物ろ過の土台となります。よって底面フィルターは厚めに外部フィルターは薄めが基本となります。小型水槽(30L程度)で底面フィルター使用で6~8cm、外部フィルターで3~4cmと考えています。この考え方は、30Lの20%程度のろ過面積を確保するという考えです。底面では・・40×26×7cm=7L 外部では・・40×26×3.5cm=3.6L+外部タンク3L=6.6L となり水槽容量の22~23%程度がろ過面積として確保します。
その上にライブロックが加わって生物ろ過層を確保していく行くという考え方です。
※ライブサンドに定着させるプラクトン⇒※下の写真は採集品と顕微鏡写真・・・
どれも、自家採取海藻に付着していたプランクトン達です






多生物叢ライブロックについて
- ライブロックとは一般的に造礁サンゴが死滅して残った骨格(主に炭酸カルシウム)を主成分とする石灰岩です。これらに海中にいる様々な微生物群や石灰藻(ピンクから赤紫色をした藻類)が表面に活着、繁殖して豊富な生物叢を形成し硝化、脱窒作用=水質浄化を行う事からベルリン式の水槽などナチュラルシステムなどで必須アイテムとなっています。特に石灰岩のポーラスな形状(有孔性)に水質浄化を担う好気性、嫌気性菌が棲息しプランクトンなどの原生動物や二枚貝、海綿、ワーム類などのベントスが棲息し海藻が繁茂して「微生物ループ」を支え排出物-分解、硝化-吸収と言った自然界での物質循環がなされています。
ライブロック=生きている岩・・・このようにライブロックはレイアウト上に用いるものでは無く多様な生物が棲息して水質浄化を行う「生物ろ過」装置と考えるべきです。・・・多様な生物が暮らし生活圏を形成する⇒くさむら⇒叢・・・が水槽内に造る事が大切で単に多生物がいれば良いのではなく全体として適切なバランスやネットワークを作る事が大切だと考えています。
小型水槽 30~35L程度を想定した場合、水量の約10%程度 3~4kgを水槽内に導入し底砂と合わせて水槽容量30%↑の生物ろ過層を確保するようにしています。 - 具体的に多様な生物叢が活着したライブロックを作るには2つの方法があります。
①自家製のライブロックを始めから自家畜養する方法がありますが、この方法は海中で石灰藻、海綿、海藻等までを活着、養殖する事となり相当難度が高く今回は省略します(現在、自家繁殖をトライ中ですので上手くいけばアップします)
②ライブロックは市販されていますので、市販品に採集した海藻や海綿、イガイ等の二枚貝やフジツボなどを活着させる方法です。特に海藻類には豊富にプランクトン、ベントスが付着しており必須アイテムとなります。
⇒ ※ 海藻に付着した顕微鏡動画は水槽全景写真の下に貼ってあります。
ライブサンドと同様に採取した海藻類をセットして活着、移植しますが海藻類でも流れ藻は活着しませんので海藻類は根元から採取して岩に密着させる事がポイントとなります。同様に海綿類も岩の隙間などに密着させる必要があります。二枚貝等は足糸と呼ばれる白い糸が貝類から出ますので水槽環境さえ整えば貝自体が何とかしてくれます。
市販されているライブロックは品質も様々ですが、私はジェイズアクアリウムさんのライプロックを使用しています。 興味のある方はクリックしてみて下さい ⇒ ライブロック関係 ジェイズアクアさんのHP - ライブロックの導入量はどの程度が良いのか?
生物ろ過装置の一つと考えれば・・・30L程度の小型水量にエーハイム2213を利用すると、ろ材容量3Lですので外部フィルターで約10%程度は使用しています。少なくとも外部フィルター同様10%程度は必要と考えます、但し下の写真の様に多生物叢ライブロックとなると海藻やフジツボやイガイなども入りますので全体のバランスを見て決定するのが良いと考えます。 - ライブロックの留意点と寿命
ライブロック=生きている岩
ライブロックは水槽内の生物ろ過装置としては大きな役割を担っています、生きている岩ですから・・生育環境を維持していく必要があります。ライブロックを覆っている石灰藻は光量(フルスペックLED20~30W程度)と流量(底面、外部ともに市販のろ過フィルターを使用し水槽全体に水流が行き渡る程度で良い)がある程度必要になります。タイドプールの再現を考えると・・・それほど神経質になる必要はありません。
また、生物叢を育成することを考えると、私の場合はローキュアリングとして過度のキュアリングは行っていません(セイタカイサギンチャク等の厄介者も多量に発生した経験も無いので必要性はあまり感じません)
水槽内の水がキラキラ煌めいて海藻や底砂にヨコエビなどプランクトンが活発に活動している状態であれば問題ないと考えます。装置、器具のスペックより水槽内の生物層多様性があり豊富である事が重要です。コペポーダ等のプランクトンが水槽のガラス面に湧いていたのが徐々に減ったり底砂のベントスを見なくなった。海藻が枯れだしたなどの生物叢の変化によりライブロック自体の変化を読み取る必要があります。特に石灰藻が剝がれだしたり減ったりするようであれば・・・ライブロックの生物ろ過装置としての寿命と考える必要があります。ライブロックも寿命はあります・・・特に夏場の高温期は注意が必要で、天然海水での換水や採取プランクトンの添加などでライブロックを賦活し水質浄化効果を望めますが1年を限度にどうしてもライブロック自体の入れ替えが必要となります。
※ 天然海水、ライブサンド、多生物叢ライブロック・・・全体に言えることですが小型水槽で「生物ろ過」「微生物ループ」「多様な生物叢」を中核として水質維持をするためには・・・①水槽内の微かな変化を見逃さない(特に生物叢の変化) ②換水については状況を見て早めに行う(水質テスターは1回/W↑程度でウォッチング) ③ベントス類(ワーム、イガイ海綿等)は豊富に定着させる・・・これらに留意する必要がありますが、特段難しい事ではありません。必ず水槽の生物たちが教えてくれます。

海藻には豊富なプランクトンが付着しています⇒ 動画をご覧ください
※ 下の動画再生にはメディアプレーヤーの作動環境が必要となります・・・動画埋め込みは暫くお待ちください
※ 最後に、留意すべき事項を追記します。
タイドプールを再現することは・・「海を切り取る」と言う事です。⇒多生物叢を再現する
熱帯魚を飼育された方は「採取環境」に合わせて飼育しているはずです。マラウィシクリッドにはアルカリ性で高硬度を・・・卵生メダカなどはタイプによりはっきりと飼育環境が分かれていますし、よりこなれた飼育水を作る事が大切となります。
タイドプールの再現は、私が好きな卵生メダカに似ています。自然環境を整え採取環境に合わせる、似せる、寄せるという事です。
岩礁帯付近の採取ではカイアシ類や貝が多いですが沖合での採取ではワレカラ類の比率がとても高くなります。これらの違いは近いうちに動画も含めてアップしていきますが・・・このような違いを良く知り再現しようとする海のイメージ=多生物叢の構成をイメージしましょう。