小型水槽での海藻飼育「海の森」を作ってよりタイドプールに近づける。海藻にフォーカスした水槽作りについて解説します。
海藻主体水槽の組み立て方
基本的な考え方:
そもそも、海藻とは何か?・・・海中に生息している藻類となります。水草同様に海中で光と二酸化炭素を使い光合成を行い酸素を放出します。違いは種子で増える事はせず胞子により繁殖します。水草水槽に近い構成が良いと言えます。
ここで、注意する事は光量が有れば・・・酸素を放出しますが、消灯すれば二酸化炭素を放出するので海藻を多量に入れると水槽内は酸素不足となるので全生体量にもよりますが、イソスジエビ、イソガニの場合は酸素不足=落ちる事となりますので夜間エアレーションをすると良いでしょう。
光と二酸化炭素が必要ですが・・・導入した生体から発生する二酸化炭素で十分と考えます。水草水槽の様に二酸化炭素の添加は必要ありません。そもそも自家採取の海藻には、豊富なプランクトン、ベントス、微小カニ等生体が多数付着しており、付着生体が発生する二酸化炭素で充分です。添加すると・・・水槽全体のバランスが崩れる事となり良い結果とはなりません。
次に、海藻を水槽に導入する効果は、前にも述べたように豊富な付着生物叢(プランクトン、ベントス等)が「生物サイクル」「微生物ループ」を回して水質浄化に効果がある事と緑藻、紅藻など葉質や形状も様々で水槽レイアウトとしても大変魅力的でコーラル類や魚とは違った美しさを見せてくれるからです。
※ 生物ろ過のおさらいに・・・
※⇒ 生物ろ過について
海藻飼育を小型水槽で実現するためには・・・生物ろ過能力を高めて水質を維持する必要があります。生物ろ過に支えられた水槽でしか海藻はその美しさを発揮してくれません。良くこなれた水質でやや貧栄養の状態で長期に海藻が楽しめます。(但し、海藻は概ね1年程度、胞子を放出して枯れ次の世代に変わります)
小型海藻水槽の具体的な組み立て:
①ろ過システムについて・・・
底面ろ過を主体として水中ポンプ部分を外部フィルターに変え、併せてタンク部のろ材を加える事により・・・ろ過面積・ろ材量/水槽容量=40%程度を確保して生物ろ過能力を高められる仕組みとします。
この事により小型水槽に海藻、海綿等多様で豊富な生体を入れる事が出来ます、この生物叢により「生物サイクル」「微生物ループ」が良く回り水質を維持できます。これにライブロックとライブサンドを併用すると理想的な水槽となります。
詳細な解説は、過去のブログを参照ください。
※ ⇒ 小型水槽に最適なろ過システムとメンテ
海藻は、緑藻、褐藻、紅藻などの種類がありますが水槽で生育するには紅藻、緑藻が適しています。褐藻類はレイアウト的には面白みも有りますがどうしても色素が溶出し水質を悪化させますので控えるのが無難と言えます。紅藻を配置し、緑藻をアクセントに入れる事が良いと考えます。
海藻等の具体的な採取方法は、過去プログを参照してください。
※⇒ 小型水槽の立ち上げは初夏がベスト
小型水槽に大切な3要素
今回は、6月初旬に三浦半島で自家採取しました。 採取出来たのは・・・①アオモグサ-青艾(緑藻) ②ミル(緑藻) ③ジガミグサ-地紙草(褐藻)⇒水中では青紫の蛍光色で大変綺麗です ④イボツノマタ-疣角又(紅藻) ⑤ツノムカデ-角百足(紅藻)⑦オキツノリ-興津海苔(紅藻)等です。・・・
※ ネイチャーガイドブック 海藻 誠文堂心光社を参照して推定しました。
晩春~初夏にかけては海藻が生え始めて採取には良いシーズンとなります。色彩、葉質を見ながら水槽に合う海藻をセレクトすると良いと思います。
※写真は自家採取時の写真ですので・・・参考にしてください。
②ライト、光量について・・・
光量は必要ですが、珪藻類も多く発生する事が多く状況により選択すべきですが・・・基本的には水草用ライトが適しています。 私が使用しているのは、 20W 色温度 7200ケルビン 全光束 2000ルーメン 平均演色性Ra 93 (45cm)です。
導入している海藻が潮下帯(干潮時に1~2m深度)に生息している紅藻が主体の為、ある程度の光量は必要となります。採集した海藻の状況に応じて調整してください。
光量全般について言える事は、神経質になる必要はありません。20W程度のライトであれば海藻飼育には十分で、水質維持に重点を置く方が大切です。
②導入生体の種類と量について
海藻に見合う生体(エビ、カニ、プランクトン等)を導入する事が前提となります。以前ブログでも説明した様に水槽容量の概ね1%程度、多くても2%を限度として導入するのが良いと考えています。(全水量が40Lであれば400~800g程度)⇒ ※2%程度を導入した場合は夜間はエアレーションが必要となります。
海藻も呼吸する為、他の生体と量関係を考慮しないと夜間に確実に酸素不足となります。
イソスジエビ 2~3匹 イソガニ 1~2匹(特にイソガニは酸素に敏感で不足すると容易に落ちます) ヨコエビ等海藻付着のプランクトン、ベントス類は生体量としてはエビ、カニ類よりも多量になりますので、底砂のサンゴ片に確認出来る程度に止めるのが良いでしょう。
これらの、バランスが良く出来ていれば・・・下の写真の様にテッポウビでは・・・自家繁殖も期待出来ます。水槽内繁殖では無く幼生類が海藻や海綿類に付着したものが育ったものと推測していますが、いずれにしても・・・良い状況を作れば水槽内の生き物たちは答えてくれます。
※ 水槽内のテッポウエビとその赤ちゃん・・・
③ エアレーションについて・・・
水槽容量の1%程度に海藻類を抑えた場合でも、夏季では溶存酸素量が低下するので夜間はエアレーションする様にしています。2%程度まで導入した場合は付着プランクトンを考慮すると昼間も状況を見て実施する必要があります。
④自家採取物飼育のコツと注意点
自家採取物・・・海藻、エビ、カニ等の飼育に注意すべき事項は、ショップ等の繁殖品とは違い水質に対してやや神経質な面があります。私の場合は、海水も当然ですが・・・底砂に現地の砂を必ず加える様にしています。特にサンゴ砂をベースにしている場合は必ず入れます。三浦での採取が多いですが、この地域は地質的にも鉄分が多く、黒味の強い砂が基本となっています。これらの現地の砂には豊富にプランクトンや細菌類(好気性菌に限らず深く掘り粘土質まで加えれば嫌気性菌も期待出来ます)が含まれていますので、表層を覆う程度は加えています。
※ 特に、自家採取海藻の飼育では微量元素のバランスが合わないのか、底砂を海外のサンゴ砂を中心に実施した場合には採集海藻の長期飼育が上手く行きませんでした。そこで採取場所の水質に寄せる面から現地の砂を加えて改善しました。但し、現地の砂は相当粒度が細かく底面フィルターの目詰まりで相当苦労しましたが・・・不織布と8Dマットで密封する事で解決し順調に推移しています。
※ 特に、現地採取の鉄分多めの砂は茶苔の抑制効果は高くこの底砂組成に変更してからは茶苔が発生した事はありません、プランクトンの湧きも良く海藻の調子も良い状態になります。
※ 現地採取物はプランクトンも豊富で魅力的ではありますが、注意すべき事項があります。・・・それは、自分の欲しいものだけが手に入る訳では無いという事です。 水槽に招かざるゲストやゲストの幼生が海藻や海綿に混じって混入する事があります。特に魚を混泳させる場合は寄生虫や病原体も混入する場合がありますので、この場合は現地採取の魚以外には導入は控えた方が良いと思います(私の場合は豊富なプランクトンで水槽水質を維持する方法なので・・・魚を入れるとほとんどのプランクトンを摂餌するので入れていません)
また、セイタカイソギンやウニ等ライブロックの石灰藻を食べたり繁殖能力が高かったりして水槽の厄介者も混入してしまいます。特に海藻や海綿からはセイタカイソギンの混入が多くなりますので、混入が認められた段階で排除してください。(私の場合は、ウニだけは石灰藻を剥がしてしまいますので見つけた段階で駆除しています。セイタカイソギンについてはミノウミウシが摂餌する事もあり多くならない限り駆除はしません。どうしても駆除が必要な場合は付着している海藻事排除します。セイタカイソギンは再生能力が高く一部分が残っただけで再生してしまうので無理に剥がさず付着している海藻やセイブロック毎排除してください)
小型海藻水槽
導入した海藻は・・・①アオモグサ②ミル③ジガミグサ④イボツノマタ⑤ツノムカデ⑥オキツノリ⑦ヒラガラガラ・・・採取後は水槽に入れて馴染ませます。(水草を浮かせて暫く馴染ませるのと一緒です)白化や色素溶出等問題ない事を確認したら色彩、葉質によりライブロックに配置して行きます。初めから活着させず水合わせから始めます。
※下部の青紫蛍光色海藻はジガミグサ?で綺麗な海藻です。シワヤハズの様に機会が有れば是非水槽に導入して欲しい海藻です。
海藻水槽のもう一つの楽しみ
自家採取水槽水槽の楽しみは、海藻に付着している生体の豊富さにあります。
これは、褐藻類に良く付着しているコシマガリモエビです。初夏~夏季に向けて良く見かけ、付着している藻類によって深緑色~赤褐色の色彩変化があり魅力的な水槽アイテムとなります。
管理方法とメンテ
- 海藻水槽の水質推移(tetra marine test) 6/17~6/24
下のグラフは、6/17に自家採取水海藻を水槽内に導入してからの水質推移を示したものです。導入時には採取海水でほぼ全換水して海藻を水槽容量2%程度入れています。海藻の水馴らし期間=1週間程度はエアレーションを終日実施(海藻付着のプランクトン、稚貝、海綿等の生体は思ったより酸素消費量も多いのでエアレーションして様子を見る)
下の水質変化-PDFグラフからも判る様に・・・主要水質項目にそれほどの変化は見られません。むしろ水槽内の生体や水の状況を観察していると・・・①「煌めくような水の輝き」が無くなった。⇒ 換水のシグナルです。②水槽の水面縁に稚貝が多く登る様になった⇒ 特に朝に良く見られる場合はエアレーションをすべきで・・・溶存酸素が足りていません。 ③ イソスジエビなどが頻繁に上下運動をせわしなく行っている⇒ 特にイソスジエビや稚ガニがポツポツ死滅している場合は「水質悪化」のシグナルです⇒ 硝酸塩、亜硝酸値に異常がある可能性があります。測定してみて下さい・・・亜硝酸値5↑ 硝酸塩25↑であればほぼ全換水が必要となります。私の場合は、エビの異常行動などで判断する事が多いです。
④水槽の臭気が通常の「磯臭さ」がやや強くなってきた ⇒ 水質が悪化している可能性があります⇒特に、海藻を導入した水槽では海藻の葉先の白化、溶出の場合は臭気が強くなります。また、併せて導入した海綿類が腐敗し出した場合もこの現象が発生します。⇒この場合は、水質が海藻生育環境に合わない、光量不足、生物ろ過不足など複合的な原因が多く海藻の入れ替えも必要となりますので、部分換水と水槽全体の生体バランスも併せて観察しながら判断します。 海綿やホヤ等の場合は海綿等を早急に除去して全換水が必要となります。
いずれにしても原因を除去しない限り再発となりますので、どうして海藻や海綿にダメージを与えたのか?
通常は「生物ろ過」「微生物ループ」が上手く回らず水質悪化となり生体全般にダメージを与え、水質に敏感な生体から落ちていく事となります。・・・これまでプランクトンの湧きが良かったのに徐々に少なくなり次第に海綿、ホヤ等、ウミウシ、エビと次第に広がります。これらは一挙に行くことは稀で水質悪化のシグナルを早めに捉えて早めに換水等の処置をすれば回復も早くなります。
※ これらの現象が発生した場合、私は天然海水、プランクトン採取(海藻と一緒にプランクトンチェックをしたもの)や現地の砂などを添加するようにしています。 ⇒ これは弱くなった「生物ろ過」を強化して水槽内の「生物サイクル]を賦活する処置となります(どうしても、水槽内の限られた環境では徐々にプランクトン、原生物を中心とした「微生物ループ」は死滅していきます)
⇒ 下の写真の様に、始めはカイアシ類も認められ(白いのがカイアシ類です)ましたが、徐々に減り単細胞藻類が多くなりました。これらが姿を消すようだとプランクトンを含む海水を添加する必要があります。
水槽アイドル(ウミウシ)の飼育方法について
- ウミウシ飼育の基本と教科書
海藻水槽を試行していると、海藻採取に伴って「ウミウシ」を採取する機会が多くなってきます。但しウミウシの飼育自体は給餌が上手く行かず難易度は相当高いと思っています。タツナミガイ等の隔年種を除けばウミウシ自体の寿命は数か月~1年以下でり摂餌して成熟すれば繁殖行動-産卵(産卵すると死亡します)-幼生浮遊-着底変態-摂餌⇒ このサイクルを種によって異なりますが 数か月~1年を繰り返す事となります。
この場合、摂餌する餌がウミウシの種類により様々で海綿等と言っても・・・ツチイロカイメン、クロイソカイメン、ダイダイイソカイメンと様々でそれ以外にもトサカ類~コケムシ類と様々です。種によって特化した摂餌により飼育がより困難となっています。また、海綿自体も飼育する事となりますので水質維持に特に配慮していく必要があります。私も海綿飼育にトライしましたが水質が合わないと死滅して腐敗し即水質悪化となります。自然により寄せた水槽環境を作っていく必要があります。
今回、採取したアオウミウシ(裸鰓目 ドーリス亜科 イロウミウシ上科)を例にとると・・・ナミイソカイメン、ツチイロカイメン、オウシユウカイメンが餌となりますが・・・今回の採取場所付近ではダイダイイソカイメンの群生があり、それを採取しました。餌となるかは疑問ですが飼育しながら再度海綿採取予定です。
しかし、ウミウシ自体は絶食期間もあり、そもそも成熟-交尾-産卵するための摂餌なので卵塊からの飼育を視野に入れて飼育しています。
※ この様に「ウミウシ」の飼育は難易度が高いので採取に当たっては1~3匹程度に抑えて観察したらリリースするのが良いでしょう。同種ペアで入れると産卵しますので単独採取、飼育が良いと思います。
※ ウミウシ飼育には生態、摂餌について詳細に記載されている・・・
ウミウシの生態観察図鑑 西田和記著 誠文堂新光社が大変参考になるのでトライする場合は必読と言えます。
ウミウシの飼育
ウミウシは海綿、コケムシ等を摂餌しますが、種によって摂餌する海綿が変わり餌の確保が飼育上のキイポイントとなります。基本は採取した場所付近の海綿やコケムシか海藻類は最低確保しておく必要があります。また2匹以上同種を水槽に入れるとほぼ交尾して渦巻状の卵塊を産卵します。(雌雄同体ですが産卵には交尾します)以前、アオウミウシが水槽内に産卵しましたが水質維持が上手く行かず孵化には至りませんでした。定期的に天然海水での換水が必要となります。飼育難度は相当高いと言えます。
海藻に付着していたサガミアメフラシ
自家採取の楽しみのひとつは、海藻に付着している生体の豊富さです。エビ、カニに限らずアメフラシやウミウシ類も付着しており飼育が楽しみな生体です。摂餌も海藻類が主体でウミウシの様に海綿、コケムシ等採取付近の餌を必ず確保する必要はありません。比較的水質を確保していれば導入した海藻で充分です。