生物ろ過指標(ろ過面積、ろ材量/水槽容量)の数値目標を40%とし底面、外部ハイブリッドろ過により従来のオーバーフロー式20%程度を超える40%を達成した。その詳細を解説する。
ろ過面積・ろ材/水槽容量比から読み解く小型水槽の最適ろ過システム
- 30~37L程度の小型水槽(40~45cm水槽)で安定した水質を確保するには・・・
①生物ろ過を強化する・・・
1. これには、水槽内の構成要素である・・・海水、底砂、ライブロックこれらについて生物ろ過の視点から求められる条件や位置づけを明確にして行く必要があります。・・・
過去ブログで詳しく解説しているので参考にしてください。
⇒ ※生物ろ過を支える3つの土台
結論から言えば、 自家採取した海水と自家採取した プランクトン、ベントス、海藻等多生物叢を移植したライブサンド、ライブロックを使用することです。
2.次に考える事は生物ろ過とは何を示していて、数値としてどう把握してどう強化すべきか?という事です。
自然界では多生物叢による「生物サイクル」「微生物ループ」によって生物ろ過が支えられています。
過去ブログで詳しく説明しているので参考にしてください。
⇒ ※ 生物ろ過について
⇒ ※ 小型水槽の構成要素について
生物層⇒特に、ろ過バクテリアやプランクトン、ベントスが活発に活動できる場所を如何に多く水槽内に確保出来るかに最終的に帰着されます。それは、水槽内の生物層が棲息出来る底砂やろ材、ライブロックを増やして、且つ好気性雰囲気に保たなければなりません。
※ 結論から言えば、「ろ過面積・ろ材量/ 水槽容量」の指標に注目し 35~40%程度を目指すと言う事です。
これらの指数は大規模な海水水槽で使用されるシステムであるオーバーフロー、サンプ槽で考えると良く判ります。例えば 60cm水槽-60×30×34cmを想定(約60L程度)でサンプが40Lある場合は・・・システムで比較すると・・・
a.ベルリン式では ほとんどベアタンクに近いので・・・
本水槽に敷いた底砂程度がろ過面積となり・・・3cm程度底砂を敷いた場合は ろ材量として5.4L・・全水量からは 5.4/100Lとなり 5~6%程度 ⇒ 過剰分はプロテインスキマーで除去するシステムです。これにライブロックを入れた分が加えられ 5kg程度入れたとしても 全体としても10%止まりとなります。
(但し、このシステムは・・・生物ろ過を強化するというより過剰なタンパク質、デトリタスを随時系外に強制除去して水質を維持するシステムです)
b.リフジウム、マッドシステムでは、 サンプに底砂を入れ海草等を植えて生物ろ過を強化しています。・・・
サンプに入れた底砂量と海草、海藻がデトリタスを吸収しており理想に近い形となります。
ベルリン同様に、本水槽に3cm程度底砂を敷いた場合は 5.4L、これにサンプ(一般的な2層分離として有効サンプ分20×24cmを想定)に7cm程度敷いたとして 3.3L
これに、ライブロックを5kg程度入れた場合は・・・5.4+3.3+5.0=16.7/100=16.7% 底砂等を厚めとしても 20%程度止まりとなります。
また、リフジウム系では、厚い底砂では嫌気性↑↑となるため、底砂を薄めに敷いたり、粒径が粗目となり、多くのベントス効果は期待できません。
c.一般的なウェットシステム
この場合は、aとbの中間となり一般的な方式です。
底砂は同様に3cm程度敷いたとして・・・5.4L これにライブロック 5kgと サンプへのろ材は6kg程度投入したとして 5.4+5+6=16.4/100L=16.4% 底砂を厚めにしても 20%程度止まりとなります。
但し、海藻、海草の硝酸、リン酸除去効果は望めませんので、実際はリフジウムより水質浄化能力は劣ると思います。
② 求められるろ過システムとは・・・
今まで述べて来た様に「生物ろ過」を強化するろ過システムとして、海水に一般的に用いられるオーバーフローシステムについては・・・私の「ろ過面積・ろ材量/ 水槽容量」40%の目標を満たすものがありません。
では、どうするか?という事ですが、小型水槽でのろ過面積の確保では「底面ろ過」に優るものはありません。しかも、好気性を合わせて確保出来ます。しかし、この方式の欠点は目詰まりし易いという事です。・・・言い換えればこの欠点を克服出来れば主なろ過システムは底面が良いという事です。古いシステムですが良く出来ています。これは不織布により解決出来ます・・・
※ 結論から言えば、底面フィルター+外部フィルターハイブリッドろ過システムが小型海水水槽にはベストの選択となります。
詳細な組み立て、考え方について 過去ブログに記載してありますので参照ください
※ ⇒ 外部ろ過水槽-1 - 実際に私がタイドプール再現用に用いているシステムは・・・
45cm(45×28×30) 38L 小型水槽
底砂8~10cm(平均9cm)11.3L ライブロック 3kg 2213ろ材容量 2kg 計16.3L
水槽容量 38L 2213タンク容量 3L
指標値 16.3L/41L=39.8% となりオーバーフローシステム以上の水質維持効果を小型水槽で達成出来る見込みです。
( ※エーハイム2213のポンプ能力から 水量置換率41L/7.3L=約6分で水槽容量全置換 )
※ 相当高い指標値が達成出来ている、これに多生物叢ライブロック(イガイ、海綿、フジツボ、海藻等活着のライブロック)とベントスが移植出来ているライブサンドで安定して生体が棲息出来るスキルを確立出来ればタイドプール再現となります。

「底面、外部併用ハイブリッドろ過システム」
EHEIM2213、3541によるハイブリッドシステムとし底砂8~10cmと厚く敷き、紅藻等を活着させたライブロックを配置して順調に推移、タイドプール再現まであと一歩・・・多生物叢の棲息環境をどう整えていくか・・・ノウハウ確立が課題
立ち上げ後の水質は・・・pH 8.2 KH 10° Ca400 No2 0.5 No3 25と順調・・・
導入生体と水槽のバランス(最適な種類と量について)
- 多生物叢(海藻、イガイ、フジツボ、海綿)導入の注意点
あくまで「タイドプールの再現」が目標なので、ジュズモ、フェーザーグラスやソフトコーラル等の導入を前提とはしていません。
あくまで、自家採取でタイドプールを再現する事が出来る生体についての水槽内導入、定着についての解説となります。
海藻類:
① 緑藻について・・・
関東近郊の潮間帯や沖合ストラクチャーで容易に採取できるものとしては、ヒトエグサ、アナアオサ、ミル程度であり、レイアウトとしては色彩も良く導入しがちであるが・・・水槽内での飼育には難があり確実に葉先から白化し溶け出すので導入は控え、どうしても入れ場合は途中で入れ替える事を前提としてください。
②褐藻について
これは、水槽内で色素を溶出し確実に水質を悪化させます。誤って混入した場合でも採取して運搬中に溶出しますのでせっかく採取した海水も海藻も・・・水槽には使えなくなります。特にホンダワラ系は海水が褐色になるほどですので海藻採取時に海水の液色を確認して外してください。出来れば、水槽導入は控えます。
③紅藻について
水槽内で溶出したり枯れたりすることも少なく水槽導入に適した海藻と言えます。ヒラガラガラやトサカモドキ、キジノオ、ツノマタ、キントキなどは色彩も良くプラントクンの湧きも良いので私は導入しています。
但し、テングサ、ノリ類については漁業権が設定されている場所が多いので採取には注意が必要です。
実際に水槽導入している写真です。 参考にしてください・・・
※同定には以下の本を参照しました、参考にして下さい・・・
ネイチャーガイドブック 「海藻 日本で見られる388種」 誠文堂新光社







「水槽内の全海藻」
主に、紅藻が主体となりストラクチャー周りのプランクトン採取時について来た緑藻、褐藻は一部投入している。投入量は・・・水槽内量+2213タンク容量を含めて 41L 対して 海藻総重量は 300g
海水の概ね全海水量の約1%弱を導入している
海藻については、色素の溶出や葉先の白化や枯れる事により水質悪化は否めないため、初期は少なめに導入し水槽の状況を見て増やすのが無難。 水槽レイアウト上は色彩や葉の形状など多種類を入れるとアクアリウムの楽しみの一つである
特に、ユカリ、カザシグサ、シワヤハズなどは鑑賞価値が高く海藻水槽の将来性を示しています

「タイドプールの再現=海藻水槽の可能性」
小型水槽を底面、外部併用フィルターで水質が安定してくると、写真のような「海の森」海藻がたなびく日本庭園に似た風景が出来ます。 コーラル類とは違う小型水槽の楽しみ方を提案して行きます
- イガイ、フジツボ、海綿類:
①イガイ、フジツボについては、水槽内の水質浄化としても、「生物サイクル」「微生物ループ」の上でも大変有効なアイテムである。但し、水質が合わない場合は死滅する事も早く注意が必要。
これらを防ぐには、自家採取時の海水、プランクトンと同時にほぼ全換水に近い状態で入れると馴染みも良く定着しやすい。
この採取は沖合のストラクチャー周りが採り易く、私の場合は筏周りの海藻採集時に併せて取る事がほとんどである。水槽導入量は海藻同様、様子を見ながら増やすのが良い。共に小振りなものが良く大きいものは水質変化に弱い傾向が有るため避ける事。フジツボでは採取時に盾板が無いものや開いている物は死滅しているので採取しない事。通常は閉じられているので蔓脚の状態が確認出来ないが水質が合えば蔓脚で微生物を濾し取ってくれるので水質浄化には適しているし峰板の根元周りには豊富なプランクトン、ベントスが棲息しているので水槽には是非導入したいものです。また、フジツボは甲殻類ですので蔓脚などは脱皮しエビ、カニ類同様に水槽内のリン酸塩濃度を上げるので期初の投入量は控える事が良いと思います。
※ 私が実際水槽内に投入している量は写真の通りです。
エビ、カニ、ウミウシ類:
小型水槽でエビ、カニ等の導入は、デトリタス(生体の排出物、死骸等の有機汚泥)対策として入れているのと水槽のアイドルとしてです。また、ヨツハモガニは海藻のメンテとしても活躍が期待出来ます。余剰プランクトン等の摂餌者としての役割も有るので水槽全体の生体バランスをとるには欠かせない存在となります。
当然、ピラミッド構造の維持としては、一番投入量を抑える必要があります。 40L程度の水槽であれば多くても15匹程度が上限と考えています。これも全体のバランスで変動しますので期初は少なく導入して様子を見て、増やすのが良いと思います。
ウミウシは、餌(主に海綿ですが種類別に摂餌する海綿の種類が異なるのでほぼ餌の確保は難しいと思って下さい。例外はコノハミドリガイの海藻)の確保が非常に難しいのでアイドルとして導入するにしても小型ウミウシを2匹程度に抑えるのが賢明でしよう。特に現地採取した場合は採取付近の海綿も採取しておき水槽に投入してください。ウミウシは溶け出して死滅するので水質悪化になり易く期初からの導入は控えるのが良いと思います。 - 生体量はどのようにすべきか?:
各生体の種類別の注意点については先に解説した通りです。「生物サイクル」「微生物ループ」を活性化させて生物ろ過を強化する事が主眼となるので各生体の特徴、利点を生かして選択してください。その上で水槽内全体のバランスに配慮します。(ピラミッド構成を維持する様に配置しましょう)
私の水槽では・・・
※ プランクトン、ベントス(ヨコエビ、ワレカラ、ワーム類)が活発に活動できるような環境を基盤とし、概ね海水容量の海藻は1%程度、イガイ、フジツボ等活着系1%↓ エビ、カニ類は 38L程度であれば 10匹以下に抑えるのが良いと思います。水槽水容量の3%を上限として生体を入れています。
私の場合は魚を入れるとプランクトン類が摂餌されるので入れません。

「ヨツハモガニ、イソガニは海藻メンテ用」
ヨツハモガニは、潮間帯の海藻採取では容易に紛れ込んで来ます。海藻を頭に付けているので水槽アイドルになりますが、海藻に付着したデトリタスの掃除にも有効ですので採取できた場合は必ず導入しましょう。イソガニは思ったより大きく育ちますし水質変化にも弱いので小さいものを1~2匹程度が良いようです。
イソスジエビもデトリタスに有効ですが、ベントス(ワーム類)を好んで摂餌しますのでベントス棲息が少ない期初や立ち上げ時には数を抑えて下さい。
- 沖合ストラクチャー周りの採取時の写真は以下の通りです・・・(6月初旬に採取)
※ 沖合ストラクチャーは閉じられた空間に様々な生物が集合して棲息しており、ワーム類などはフジツボの根元などに多く見かけます。 8L程度のエビクーラー、エアーポンプ2基・・・写真程度の量を採取して水槽に導入します。意外とプラントクン量が多いのでこの程度でも容量的には限界と思います。特に、海綿、ホヤ等がある場合はエアーが弱いと水流不足で死滅しやすくなるので注意。プランクトン類は主にワレカラです。



維持と管理のコツ
- 「小型水槽維持の基本的な考え方」
※ 小型水槽で「タイドプール再現」を考えると生物ろ過を強化するため、どうしても水槽内のプランクトンも含めた全体の生体量は多くなります
その上で、「生物ろ過強化」水槽の生体量分布は・・・エビ、カニ、ヤドカリ等の大型生体 < イガイ、フジツボや貝類 < 海藻 << プランクトン、ベントス << ろ過細菌・・・と言うピラミッド構造になっている必要があります。
この分布が崩れると茶苔が異常発生したりフジツボ、イガイ等水質変化に敏感な生体から死滅して更に水質悪化を招きます。また、甲殻類(イソスジエビ、コシマガリモエビ等、イソガニ、ヨサハモガニ等そしてフジツボ)を導入した水槽は脱皮の関係で、どうしてもリン酸塩が多くなる傾向は否めません。これが、海藻等に影響を与えて海草の葉先白化などを招きやすくなります。
この前提条件の中で、水槽を立ち上げ維持管理するのは少しコツがあります。
これは、1.ろ過バクテリアを沸かす空回し期間(概ね1~2週間) 2.本格的な水槽(タイドプール再現)の組み立てと分けて実施をしていく事です(淡水と同じです)
① 立ち上げ初期・・・
ろ過細菌が充分繁殖していない段階ではあまり弄らない事です。初期に導入した種生体(海藻付着プランクトン主体)の量が多すぎる場合が有りますが、まずは1週間程度は様子を見る程度にしましょう。ここで、水槽内の大幅な変更等はかえって「生物ろ過」「微生物サイクル」に変調を来たします。
この状態ではしばしば茶コケが発生する事があります。
⇒ これは、私のEHEIM2213、3541連結38L小型水槽の3日後の状態です。使用海水は採取海水が無かったので・・・殆ど人工海水、底砂はライブサンド2/3に新規サンドを加えています。

「水槽立ち上げ3日後」
No3値 30⇒40と立ち上げ直後から僅かに増加が認められたがそれ以外の管理値に変化は無かった。
⇒ 立ち上げ直後はリン酸塩、有機物の増加にろ過バクテリアが追いつけないので茶苔が発生しやすい
しかし、この状態で水槽内の大幅な変更はかえって水槽の水質悪化になり易いので注意してください
※ 立ち上げ初期= 2週間以内
基本は、から回しで好気性細菌、プラントクン等土台となる生物層の定着期間ですので、あまり弄らず茶苔などがどうしても気になる場合は、1/2程度の換水または、紅藻主体の水槽であれば海藻へダメージは少ないので下の写真の様に1~2日程度ライトを消灯してください。茶苔自体珪藻類が多いので光量を抑えるのは効果があります。対応はその程度に止めてじっくり土台作りが重要です。
この段階で、リン酸除去剤等の処置を始めてしまうと水槽全体の生体バランスが崩れてしまいます。消灯程度に抑えるようにして下さい。
※ 消灯時の効果は以下に写真で説明しています。
② 本格的な生体導入、レイアウト調整期
期初の土台作りが終了すれば、 一度 水槽内の生体(海藻、イガイ等活着生体、エビ、カニ類)の生育状況を見て下さい。
この時のキイワードは「キラキラ煌めくような海水」「コペポーダ等のプランクトンがガラス面に湧き出す」この2点が重要です。
海水品質は透明度だけでは無く「キラキラと煌めく」状態が良い水質と言えます。 この時は同時にプランクトンが活発に活動し湧き出します。・・・水槽内にフジツボを導入していれば蔓脚が盛んに有機物を濾し取っているはずです。これは水槽内の生物サイクルが順調に回っている証拠です。
これらが、認められない場合は、水槽内の生体の入れ替えや換水が必要となります。
具体的には・・・1.自家採取海水で1/2以上の換水 2.自家採取の海藻を含めたプランクトン、ベントス(必ずプランクトンチェックをして豊富に添加する)を添加する、この時全体量は3%以下を目安として海藻、フジツボ等活着生物叢は入れ替えて下さい。
から回しで期初問題無く推移していれば・・・1~2週間後を目安に、自家採取 海藻(緑藻主体)やフジツボ、海綿、イガイなどを水槽全体のレイアウトに留意しながら、追加します。 この時に期初に導入した海藻等に葉先白化や枯れだしたものがあれば入れ替えを実施します。
※立上げ初期の、茶苔の状況と対処・・・

PH8.2 KH10 ca450 No2 2.5 No3 40亜硝酸値に僅か増加が認められる



- 立上げ後の自家採取生体の導入・・・
以下の写真のように、海藻 フジツボ プランクトンを含む海水で2/3~全換水しながら自家採取生体を導入または入れ替えを実施します。





- 水槽全体が、透明で「キラキラと煌めく」ような水質で「コペポーダ等プランクトンがガラス面に確認できる程湧きだす」「フジツボの蔓脚が頻繁に摂餌している」様であれば後は、定期的な換水やプランクトン、ベントスの追加を行うと良いでしょう。
※ 沖合ストラクチャーで緑藻に付着していたワレカラの動画を貼り付けます。